タクシーに乗ってから長い時間が経っていた。
住所は言えないが俺の隣に座るおっさんの家は東京都ではないようだ。

ありがたい
少なくともタクシーにいる間ならこいつもそれほど派手に動いたりはしないはずだ

正直メンタルはかなり弱っている。
こいつの家に着いたらもう立ち直れないかもしれない。
未だにこいつは俺の口から指外さず、俺の手を強引に股に押し付ける
この状態で既に10分近く経つ。
ほんの少しだけ思考が戻る。


そんな中で 
もしも俺がゲイであったなら、この状況を楽しめるのだろうか…
男が好きだったら俺は苦痛にも感じることがないのだろうか…

俺はミラー越しに男の顔を見た。
無理だ。
言い方が悪いがこの男はルックスに関しては良くない。
正直ゲイの好みで挙げられる例には当てはまらない

風俗で働く女性のことをすごいと今考えていた。
彼女達はどれだけ相手がブサイクだろうがなんだろうが仕事を全うする。
苦に思わない人もいるかもしれないが。

それでもすごいと思える。

俺はまだ肌を合わせるところまでいってないが正直辛い。
おっさんをタクシーから突き落としてやりたい


タクシーについてる時計を見るとすでに40分ほど経過していた。
そして運転手がもうすぐ目的地だという。

ついに到着してしまうのか…


時刻は午前3時前
あと7時間の辛抱だ…


タクシーが止まり、目的地へ到着したことを理解する。
目の前には部屋数10くらいのアパートがあった。
俺が先に外にでて、おっさんが支払いを済ませてからタクシーを降りる。

季節は冬でタクシーの暖房がないと途端に冷える。
こんな時期は人肌恋しい季節だが
おっさんとは肌を合わせたくない。

悲しい



ぼーっと考え込んでる俺の背を押して
部屋行くぞと語気を強めていう


俺は黙って男の後ろについていき部屋まで歩いて行く

アパートの二階へと上がりすぐ目の前の部屋に止まる。

そしておっさんは鍵を開けて俺を家へ入れた  






指名がロングで入り客と一緒に行かなければならなくなった。
この時点で既に絶望感に包まれ舌を噛み切って死ぬか…などと考えていた。
だが死ぬ勇気もない。だからここにいるのだ。

ふとマネージャー近づいてきて手に金を握らせてきた。2万円だ。

そして小声で
「初めてくるきゃくだからわからないけどちょっとタチが悪い人かもしれないから気をつけてね、
無理なものは無理と言っていいから。
挿入されそうになったらゴムを付けてってちゃんと言ってね。
無理なものは無理って言って」

​小声で嫌な言葉を聞いて絶望感がぴーくに達した。

結果


考えることをやめた

正確には諦めた



諦めたのにはふとある言葉が頭をよぎったからだ。


考えている最悪な事態の8割は起こらない。
キタコレ
大丈夫だ
よし頑張ろ


そして考えることをやめた。



何も考えず言われたことをやるロボットになればいい何も考えず生きようそうすれば朝日が昇る…

そんな状態になった。

気がつけば客もかいけいを済ませて帰る準備もできた。

ドアを開け階段を登り外に出る。

おっさんはタクシーを捕まえようとしている。
どうやら自宅に向かうらしい。

タクシーが捕まり客が先に乗り込む。
俺が乗り込もうとした時マネージャーがまた話しかけてきた。

何かあったら電話して

俺はマネージャーの言葉に空返事をしてタクシーに乗り込んだ。



精神は無の状態と言ったが完全に無ではなく

心の奥底ではマネージャーはあんな風に言っていたが店にいる時のおっさんはそれなりに紳士的に対応していた。

触ってきたのだってスキンシップだ過剰に思えたのも気のせいだ。大丈夫。大丈夫。大丈夫。


そんな考えが奥底にあった。

だがそんなことはなかった。


タクシーに乗ったらあの野郎は豹変した。

俺の襟首をつかんで引き寄せてきて
首に腕を回して指を俺の口に突っ込んできた。

突然で何がなんだかわからなかった。
ただ呆然と口を開けっぱなしにしていると

おっさんが小声で
「指を舐めろ、手で俺のち◯こを触れ」
口の中を指でかき回される。
反対の手でおれの腕掴み強引に股に押し付ける

体が硬直して何もできないでいると

「テメーをいくらで買ったのか分かってんのか ちゃんと奉仕しろ。つまんねーやつ。殺すぞ
下手くそ。死ね」

沢山の言葉を言われた


恐怖   嫌悪感 殺意  後悔  絶望感  悲哀 傷心 不幸
悲痛  哀れ  惨め…

マイナスな感情が無数に溢れてくる。


俺を買った

この言葉が1番辛かった

生きてることが嫌になる。
俺は物と同じ生きたダッチワイフみたいなもの

俺の価値は2万円

生命としての価値なし…





ミラー越しにタクシーの運転手と目があった。
彼は俺のことを哀れむように見てから正面を見た。


2丁目でよく客を乗せているのだと思う。
俺みたいなやつを何人も見たのだろう。


俺は固まった体を頑張って動かし言われた通りやる。
興奮してきたのかこいつは股間を膨らませている
そして惨めな俺を楽しそうに見ている。
こいつはさらに俺を辱めようと運転手がミラー越しに見えるように俺の顔を動かし、正面を向かせる。

指を突っ込まれて涙目になった俺の顔がミラーに映る…

運転手はあえて俺のことを見ないでいてくれた
運転手の優しさが逆に辛かった。







ボーイと初老のじいさんが店を出た後すぐ、来ていた他の2人も消えて店内は再びテレビから流れる音以外聞こえなくなった。

何事もないまま1時間が経ち時刻は12時を回る先輩ボーイが時間のようで店を退店する。
おっさんもそのあとすぐに帰り、店内は俺とマネージャーの2人だけ。


気を使ってマネージャーが色々話しかけてきた
正直店の人間と仲良くする気は微塵もなかったので、面接時に書いたプロフィールのこと以外大して話していない。
借金のことなどは特に言いたくなかった。
変な同情をされたくない。 






少ししてマネージャーとの会話もなくなり、気がつけば時刻は深夜2時
今日はもう何もないのかと諦めていた。
まあ正直平日の真っ只中のため遅くまでみんな残らないのだろう


眠りかけた頭の中でぼーっと何かを考えていると急にチャイムが鳴りドアが開いた。
完全に油断していたため飛び起きた。
ドアの向こうから現れたのは50歳くらいのおじさんだった。
いらっしゃいませと挨拶をしてバーカウンターに入る。マネージャーの対応から普通のお客さんだと判断する。

今日初めて訪れた普通の客

店内で空いているボーイは俺だけのため必然的に相手をしなければ行けなくなる。
気に入られれば指名が入り、気に入らなければ何もない。

俺的には指名だけは絶対されたくなかった。
見た目で人を判断はしたくなかったが、
髪は​白髪​​腹は服の上からでもわかるくらい出ている 顔はカエルっぽい感じのおっさんだ


本当にきつい。
特にきついのが人を舐め回すように見てくる
多分気に入られたのだろう。
スケベな顔をしてるといえばわかるだろうか。


気持ち悪い


かなりきついが接客はしないといけない。
とりあえず飲み物をだし、おしぼりを出してカウンター越しに当たり障りのない会話をする。
かいわをしている感じ礼儀正しい感じでバーなどで飲み慣れているのかそこまで変な感じはしない

会話自体もマネージャーが主導権を握りながら会話していたので俺は大して話さずに済んでいた。
だが途中から指名云々の話になっておりいつのまにか指名扱いになっていた。

ついに来てしまった

そしてマネージャーが客に気を使ってを俺を客の真隣に座らせた。

瞬間全身が寒気と嫌悪感に襲われた。

おっさんが太ももに手を置いていた
そして手は太ももから徐々にに股の方に手を伸ばしてくる。顔は平静を保とうとするが顔はかなり引きつっていたと思う。

ふとおっさんの股の方に目が行った

ズボンが膨らんでいた

おっさんは変わらず舐め回すように俺の顔を見る。

手を置いたまま会話を続けてくる
話の内容は俺の性癖やセクシャリティの話などエロ方向に変えられた。



話の最中ずっと手が股から離れてくれない。
是が非でも勃たせようとしてくる。
手の力が強くなる。会話の内容もエスカレートしていく。






俺は下ネタが嫌いなわけではない、むしろ好きな方だ…だけど今だけは下ネタを聞きたくない、吐きそうだ。気持ち悪い。



明日から下ネタを聞くことすら拒まれるくらいに気持ち悪い。
覚悟していたがここまでとは予想外だった。
男に体を触られまくることに対する嫌悪感は想像以上。

拒みたくても拒めないこの状況がどうしようもなく絶望感を煽る。

俺があまりにもぎこちないのと勃たないことに腹を立てたのか、おっさんはマネージャーに大丈夫なのこの人と聞く始末だ。







この瞬間解放されるかもしれないという安心感があった。だがそんなものは束の間の安心で、
マネージャーは全然大丈夫だから安心してなどとほざく。
おっさんは触り続けることをやめない。
だが触ることに飽きたのか突然手を離した。
お会計と言った。
帰るということなのだろう。

そしてマネージャーが俺に準備してという

俺にはこれが死刑宣告に等しいものだった

指名の内容は泊まりのロングで入っていた
つまりおっさんの家まで行き

朝10時まで一緒ということだ


絶望した


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